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東京地方裁判所 昭和58年(わ)1712号 判決

裁判所書記官

中里功治

本店所在地

東京都新宿区西早稲田二丁目七番一号

株式会社ユニカ

(右代表者代表取締役井手冨)

本店所在地

東京都新宿区西早稲田二丁目七番一号

株式会社磯崎商店

(右代表者代表取締役磯崎良造)

本籍

東京都港区麻布十番二丁目一三番地

住居

東京都港区三田二丁目三番 三四-一三〇三号

会社役員

磯崎信

昭和六年一二月二四日生

右の者らに対する法人税法違反各被告事件について、当裁判所は、検察官上田勇夫出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

一、被告人株式会社ユニカを罰金九〇〇〇万円に、

被告人株式会社磯崎商店を罰金七〇〇万円に、

被告人磯崎信を懲役二年六月にそれぞれ処する。

二、被告人磯崎信に対し、この裁判確定の日から四年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社ユニカ(以下、「被告会社ユニカ」という。)は、東京都新宿区西早稲田二丁目七番一号に本店を置き、食品・雑貨類の販売及び遊技場経営等を目的とする資本金三〇〇〇万円の株式会社であり、被告人株式会社磯崎商店(以下、「被告会社磯崎商店」という。)は、右同所に本店を置き、遊戯場経営を目的とする資本金五〇万円の株式会社であり、被告人磯崎信(以下、「被告人」という。)は、右各被告会社の代表取締役として各会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人は、右各被告会社の業務に関し、各会社の法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一、昭和五四年五月一日から同五五年四月三〇日までの事業年度における被告会社ユニカの実際所得金額が二億八二三七万五一二四円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年六月三〇日、東京都新宿区北新宿一丁目一九番三号所在の所轄淀橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億六〇七六万五六一四円でこれに対する法人税額が六二四三万五三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五八年押第一二二四号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一億一一〇七万二五〇〇円と右申告税額との差額四八六三万七二〇〇円(別紙(五)税額計算書参照)を免れ、

第二、昭和五五年五月一日から同五六年四月三〇日までの事業年度における被告会社ユニカの実際所得金額が四億六九四七万六四五二円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年六月三〇日、前記淀橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億九九二五万三二〇九円でこれに対する法人税額が八一六九万円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一億九五一七万五三〇〇円と右申告税額との差額一億一三四八万五三〇〇円(別紙(五)税額計算書参照)を免れ

第三、昭和五六年五月一日から同五七年四月三〇日までの事業年度における被告会社ユニカの実際所得金額が八億〇〇五七万六八九〇円(別紙(三)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年六月三〇日、前記淀橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四億二一〇四万七七六一円でこれに対する法人税額が一億七四四〇万八四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三億三三八〇万六二〇〇円と右申告税額との差額一億五九三九万七八〇〇円(別紙(五)税額計算書参照)を免れ、

第四、昭和五六年五月一日から同五七年四月三〇日までの事業年度における被告会社磯崎商店の実際所得金額が一億五四一五万一〇九六円(別紙(四)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年六月三〇日、前記所轄淀橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が九四一三万三五四六円でこれに対する法人税額が三七九七万五八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前記押号の4)を提出し、そのまま法定納期限を徒過し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額六三一八万三四〇〇円と右申告税額との差額二五二〇万七六〇〇円(別紙(六)税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

判示事実全般につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書五通

一  薄井圭一(二通)、根本博晴、田中和男、倉嶋由二郎、井汲昭三の検察官に対する各供述調書

一  登記官作成の登記簿謄本二通及び同謄本写二通

判事第一ないし第三の事実ことに過少申告の事実及び別紙(一)ないし(三)修正損益計算書の公表金額につき

一  検察事務官木村善治作成の昭和五八年六月一〇日付捜査報告書

一  押収してある確定申告書三袋(昭和五八年押第一二二四号の1ないし3)

判示第一ないし第三の事実ことに別紙(一)ないし(三)修正損益計算書の当期増減金額欄記載の内容につき

一  淀橋税務署長作成の証明書(記録第二九〇号と表示のあるもの)

一  収税官吏作成の商品総売上高調査書(以下、調査書はいずれも収税官吏が作成したものである。)

一  仕入調査書

一  期末商品棚卸高調査書

一  修繕費調査書(昭和五八年一月一七日付のもの)

一  公租公課調査書

一  受取利息調査書

一  雑収入(中古機械売却益)調査書(昭和五八年一月一七日付のもの)

一  為替差益調査書

一  価格変動準備金戻入調査書

一  価格変動準備金繰入調査書

一  消耗品費調査書

一  水道光熱費調査書

一  交際費限度超過額調査書

一  固定資産除却損調査書

一  検察事務官木村善治作成の昭和五八年六月二一日付捜査報告書二通(被告会社ユニカの福利厚生費、事業税認定損に関するもの)

判示第四の事実ことに過少申告の事実及び別紙(四)修正損益計算書の公表金額につき

一  押収してある確定申告書一袋(昭和五八年押第一二二四号の4)

判示第四の事実ことに別紙(四)修正損益計算書の当期増減金額欄記載の内容につき

一  淀橋税務署長作成の証明書(記録第二九一号と記載のあるもの)

一  売上(パチンコ)調査書

一  修繕費調査書(昭和五八年一月二〇日付のもの)

一  雑収入調査書(昭和五八年一月二〇日付のもの)

一  雑損失調査書

一  検察事務官作成の昭和五八年六月二一日付捜査報告書二通(被告会社磯崎商店の福利厚生費、事業税認定損に関するもの)

(法令の適用)

一  罰条

(一)  被告会社ユニカ

判示第一の所為につき、昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条一、二項、一六四条一項、判示第二、第三の所為につき、右改正後の法人税法一五九条一、二項、一六四条一項

(二)  被告会社磯崎商店

判示第四の所為につき、右改正後の法人税法一五九条一、二項、一六四条一項

(三)  被告人

判示第一の所為につき、行為時において右改正前の法人税法一五九条一項、裁判時において右改正後の法人税法一五九条一項(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による。)、判示第二ないし第四の所為につき、右改正後の法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

被告人につき、いずれも懲役刑選択

三  併合罪の処理

(一)  被告会社ユニカ

刑法四五条前段、四八条二項

(二)  被告人

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(刑及び犯情の最も重い判示第三の罪の刑に加重)

四  刑の執行猶予

被告人につき、刑法二五条一項

(量刑の理由)

被告会社磯崎商店は、被告人が個人で営んでいたパチンコの景品卸販売業を引き継いで行うべく昭和三四年八月三一日設立した株式会社であり、昭和四二年ころから右景品の卸販売のほかに、パチンコ店「大塚センター」及び喫茶店「サハラ」の営業をも行うようになったが、昭和四六年八月被告会社ユニカが設立された際右景品の卸販売の事業は同被告会社に引き継ぎ、また昭和五六年一二月には右喫茶店「サハラ」を閉店してパチンコ店に改造したことから、被告会社磯崎商店では以後専らパチンコ店を経営しているものであり、また被告会社ユニカは、昭和四六年八月被告人及び井手冨が共同出資して設立した、パチンコの景品卸販売等を目的とする株式会社であって、前記被告会社磯崎商店の景品卸販売業と井手冨が経営していた株式会社亀屋商店の景品卸業を引き継いで営業を始めたものであり、昭和四七年九月にはパチンコ店「おおとり」を買収し、さらに昭和五〇年一〇月にはパチンコ店「多摩レジャー」を開店してパチンコ店の経営をも行うようになったものであるところ、本件は、判示のとおり、被告会社磯崎商店において昭和五七年四月期の事業年度に二五二〇万円余の、被告会社ユニカにおいて昭和五五年四月期、同五六年四月期、同五七年四月期の三事業年度にわたり合計三億二一五二万円余の法人税をほ脱したという事案であって、ほ脱額は被告両会社合せて総額三億四六七二万円余の巨額に上っている。ところで、被告両会社において脱税が行われるようになった経緯等をみると、被告人はすでに昭和五一年ころから担当者に指示しパチンコ店の売上の一部を除外して脱税を行っていたものであり、その後昭和五五年ころからは、会社の営業成績が急速に伸びて予想を上まわる多額の利益をあげるようになったことから、右売上の除外額を大巾に増加させたり、あるいは決算に際し棚卸商品の除外、買掛金の水増計上等不正の操作を行わせるなどして本件のような大型の脱税を敢行するに至ったものである。被告人は、右の脱税の動機に関し、被告両会社のような業種の中小企業においては将来に備えて裏資金を蓄積しておく必要があり、資金を蓄積しておくことは経営者としての責任でもあると考えていた旨供述しているが、右のような事情が本件のような規模の脱税行為を正当化するものでないことは多言を要しないばかりでなく、被告両会社においては、被告人らの努力と手腕により営業成績は順調に伸びていたものであって、特に資金繰り等に窮していた状況はなかったものと認められるのである。また、本件脱税の態様をみると、被告人は、総務課長や前記各パチンコ店の支配人等に指示して、毎日の売上の一部や中古パチンコ台の売却代金等を除外させ、あるいは景品等を仕入先に返品して支払代金の返還を受けたのに経理上返品として処理せずにこれを裏資金に回し、さらには被告会社ユニカの決算に際し総務課長に指示して前記のような不正の決算操作をさせていたものであって、大胆かつ悪質な犯行である。以上に述べたように、本件はほ脱額が巨額であって、大型の脱税事犯であること、被告会社においては、被告人の指示により相当長期間にわたって計画的に脱税が行われていたものであること、本件ほ脱の手段・方法が大胆かつ多岐にわたっていることなどに徴すると、被告人の納税に対する意識は極めて稀薄というべきであって、本件当時被告両会社の代表取締役であり、本件犯行を中心となって推進した被告人の刑責には非常に重いものがあるといわなければならない。

しかしながら、他方において、本件のほ脱額が巨額であるとはいっても、被告会社ユニカの申告所得額は毎年増加しており、また被告両会社の正規の税額に対するほ脱税額の割合は四〇パーセントないし五八パーセントであって同種の事案に比較して極めて高いものとまではいえないこと、被告人の本件脱税の動機は前記のとおり、被告会社の裏資金を蓄積するためであって、被告人が個人的にまたはその家族のために費消するためのものではなかったこと、脱税の手段のうち期末棚卸の除外、買掛金の水増計上等については、被告人は仮決算書をみて、予想外に所得が高額になっていたことから、これを圧縮するため適宜利益調整をした決算書を作成させて申告していたものであって、原簿である元帳等の操作までは行っていないこと、被告人は、本件が発覚して以来犯行をすべて認め、本件起訴後には自己の責任を痛感して被告両会社の代表取締役たる地位を退くなど反省・改悛の情が認められること、被告両会社において、本件各事業年度につき修正申告をなし、本税、関連地方税、附帯税等の納付を全て完了していること、被告会社磯崎商店は被告人の実弟が、被告会社ユニカは井手冨がそれぞれ新たに代表取締役に就任し、右両名は当公判廷において再び脱税を繰り返さない旨確約しているうえ、新たに税理士を採用し、会社内部においても経理内容を相互にチェックする体制をとるなど経理について改善の跡が認められること、被告両会社が脱税の摘発を受けたのは今回が始めてであり、被告人についても業務上過失傷害罪により罰金刑に処せられたほかに特段の前科、前歴のないこと、その他被告人の家庭の状況等被告人らに有利な事情も認められるので、これらの情状をも総合勘案したうえ主文のとおり量刑し、被告人に対しては特に刑の執行を猶予することとした(求刑は、被告会社ユニカにつき罰金一億円、被告会社磯崎商店につき罰金八〇〇万円、被告人につき懲役二年六月)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田真一 裁判官 羽渕清司 裁判官 園部秀穂)

別紙(一) 修正損益計算書

(株)ユニカ

自 昭和54年5月1日

至 昭和55年4月30日

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(二) 修正損益計算書

(株)ユニカ

自 昭和55年5月1日

至 昭和56年4月30日

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(三) 修正損益計算書

(株)ユニカ

自 昭和56年5月1日

至 昭和57年4月30日

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(四) 修正損益計算書

(株)磯崎商店

自 昭和56年5月1日

至 昭和57年4月30日

〈省略〉

〈省略〉

別紙(五)

株式会社ユニカ

税額計算書

〈省略〉

〈省略〉

株式会社磯崎商店

税額計算書

〈省略〉

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